ブログBLOG

事務所だより 10月号

2025/10/30 木曜日

いまだ暑さが残ります今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。

=-=-= 目次 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
◆2025年10月の税務
◆相続税の債務控除『確実な債務』
◆相続税と所得税の二重課税
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

◆2025年10月の税務

10月10
●9月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

10月15
●特別農業所得者への予定納税基準額等の通知

10月31
●8月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●2月、5月、8月、11月決算法人の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●2月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の2月、5月、11月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の7月、8月決算法人を除く法人・個人事業者の1月ごとの中間申告(6月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>

○個人の道府県民税及び市町村民税の納付(第3期分)(10月中において市町村の条例で定める日

 

◆ -相続税の債務控除-『確実な債務』

相続税の申告では被相続人の債務は相続財産から控除されます。この場合、控除される債務は「確実な債務」に限るとされています。被相続人の借入金は控除される債務の代表例ですが、その債務が相続の後に債務免除の対象となっていた場合、債務控除できるのでしょうか。

▽確実な債務の要件
 債務控除を受けるためには、債務が存在していること、及び債権者より債務弁済の履行が義務づけられていることが要件とされており、この要件を満たす債務を「確実な債務」と呼んでいます。

▽債務免除は担税力を減殺しない
 相続税は財産を取得した相続人に担税力を認めて課税されます。また、被相続人の借入金は相続財産から弁済して担税力が減殺されるので遺産総額から債務額を控除することになります。しかし、その債務が免除されることが確実とされる場合、担税力は減殺されないので債務控除は認められないことになります。

▽債務免除に停止条件がある場合
 被相続人の借入金のうち一定金額を期日までに弁済すれば、残額は弁済を免除する停止条件が借入契約に付されていた場合、その成就がほぼ確実であると見込まれるときは債務控除を認めない判例があります。
 しかし、被相続人の死亡時に債務免除に必要な弁済が未達であれば、相続人に弁済の履行義務はあるので、残債務は「確実な債務」と言えるのではないでしょうか。

▽債務免除は確実な債務でないとされた裁判
 実際の裁判事例です。相続人は被相続人の16億円の借入債務を引き継ぎ、銀行との和解による債務免除に必要な金額を弁済して残額約9億円の免除を受けました。そして相続税の申告では相続開始時に債務免除を受けることは確実であったとして約9億円の残債務について債務控除せず、増加した純資産額に対する相続税を負担しました。ところが債務免除益にも所得税が課税されて二重課税となったため、相続人は所得税の非課税を求めて訴訟を起こしました。
 一審、二審では相続人の資産状況から債務免除に必要な分割金は優に支払うことができ、残債務9億円は「確実な債務」でなかったとされました。しかし、相続人が仮に相続時に停止条件が成就していなかったことを理由に債務免除部分の債務を「確実な債務」として申告していた場合、裁判は同じ展開になったのか疑問が残ります。

 

◆相続税と所得税の二重課税

 相続で取得した財産について相続税が課された後、同じ財産に所得税が課されると二重課税となって所得税の非課税規定が適用される場合があります。

▽二重課税を排除した長崎年金訴訟
 相続税と所得税の二重課税を認めたのが平成22年の長崎年金訴訟です。最高裁では相続で取得した定期金給付契約により将来にわたり受け取る保険金の現在価値に課された相続税と、取得した保険金の元本部分に課された所得税が二重課税になるとした上で所得税の非課税規定が適用されました。

▽所得税の課税根拠は包括的所得概念
 所得税が課税される根拠は、包括的所得概念と呼ばれるものです。金子宏教授「租税法」によれば、包括的所得概念とは、人の担税力を増加させる経済的利得が、すべて所得を構成すると考えます。一時的・偶発的・恩恵的利得も所得の範囲に含まれ、債務免除益のほか、現物給付、為替差益などの経済的利益にも課税され、不法な手段による利得も納税者が管理支配しており、課税の対象となります。

▽所得税の非課税規定
 相続税及び贈与税は相続、贈与、遺贈により取得した財産の経済的価値に担税力を認めて課税されますが、相続財産、贈与財産の経済的価値と同一の経済的価値に対しては所得税を二重に課税しないとするのが所得税の非課税規定の考え方です。

▽譲渡所得に二重課税は生じない
 相続で取得した土地を譲渡した場合、相続財産に課された相続税と被相続人の保有期間中に生じた土地の含み益が譲渡により実現して課された譲渡所得税は二重課税となりません。判例では相続により取得した土地と被相続人の土地保有期間中のキャピタルゲインに同一の経済的価値に対する二重課税が行われることを認めていません。

▽債務免除益に二重課税は生じるか?
 被相続人の借入金について一定金額を期日までに弁済すれば残額を免除するという停止条件付債務を承継した相続人が、相続の後に受けた債務免除益について所得税が課されたため、相続税と所得税の二重課税が争われた裁判があります。一審は、債務免除を受けた時点が相続開始の後で二重課税ではないとしましたが、控訴審は、債務免除による経済的利益は相続開始の時に実質的に生じており、二重課税になるとして非課税規定の適用を認めました。課税庁は最高裁に上告しています。